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Happy birthday 謙也さん!


ギリセーフ!
謙也さん誕生日おめでとうっすわ~

というわけで謙光!
謙也ちょっとしか出てこないけど(笑)













朝の一連の行動というのは、割と意識せずに出来てしまうものである。
今日の俺も、しっかり目覚めた頃には朝食を平らげていた。
そこから眠気の残る体にムチを打って、洗面台に向かうのである。
朝練のある俺は、家族の誰よりも家を出るのが早い。
故に、洗面台を長時間使うことが出来るのである。
逆に言えば、テスト期間中なんかは洗面台がごった返していて、しばしば登校する意欲を失うことになる。
まあ、今はそんなことは置いといて。
いつもと同様、割と時間をかけて髪を逆立てていく。
が、一箇所だけどうしても寝癖が直らない。
家を出る時間が迫ってくるにつれて、焦りも増していく。
なんで、今日に限って。

「光ー!そろそろ出なあかんのちゃうー?」
「分かってる!」

母親に急かされ、寝癖はもう諦めた。
階段を駆け上がり、自室に置いてあるラケットバッグを勢いよく背負う。
そしてその横に置いてあった小さな紙袋だけは、そっと丁寧に手にとって、俺はまたしも階段を駆け下りた。

「行ってきます」

いってらっしゃーいと叫ぶ母親の声を背中に受けながら、俺は家を出た。
ふと歩き出して、ipodを家に忘れてきたことに俺は気づき、しまったと思う。
しかし今から戻っている余裕はない。
俺は再び諦めのため息をついた。
なんで、今日に限って。
まだ寒さの残るこの季節。
俺は肩を竦めて、足早に通いなれた通学路を歩いていった。

「あ、部長おはようございます」
「ん、おはよう」

一番先に部室に来るのは、いつからか俺になった。
部長と呼ばれるのも、いつからか俺になった。
部員たちが登校してくる頃には、俺はいつも着替え終わっていて、誰よりも先にコートに出るのが習慣になった。
何もかもが変わっていく中、謙也さんだけは変わらぬ存在だと信じていた。
今朝持ってきた紙袋に視線を落とし、そっとため息をつく。
その紙袋を丁寧に自分のロッカーの中に入れて、ラケットを持った。

「先コート出とくわ」
「あ、はい!」

部室にいた後輩に一言告げ、一足先にコートに出た。
未だに残る寝癖を押さえつけて、ゆっくりと体を動かした。

謙也さんとどこかぎこちない空気になったのは、謙也さんの受験が近くなってきた頃からだった。
謙也さんはいつだって優しくて、寛大で、俺を全身で受け止めてくれる存在だった。
変わらないと思ってた、信じてた。
でも、受験というのはそこまで甘くないらしい。
特に謙也さんは家業を継ぐということもあって、今から少しでもよい高校に入っておかなければならないらしい。
その辺の事情は分かっているつもりだったし、謙也さんの邪魔をするつもりはなかった。
ただ、謙也さんは少しだけ、不機嫌でいる時間が増えた。
俺と会っても、割と強引にベッドに流れ込む、なんてことばかりで。
謙也さんだって気づいていたんだろう、俺と少し距離を置くようになった。
きっと謙也さんは俺を傷つけるのが嫌だったんだろうと思う。
だから受験が終わるまでの間、俺と距離を置こうとしたんだと、それぐらい俺にだって分かった。
ただ謙也さんの受験が終わっても、俺たちの距離は縮まらなかった。
今度は、俺が距離を置いたから。
謙也さんの誘いも、テストが近いとか部活が忙しいとか言って断った。
俺だって謙也さんに会いたかった。
今まで会えなかった分、会って抱きしめて好きだって言ってほしかった。
でも、怖かったのだ。
受験を経て、謙也さんが変わってしまったような気がして。

ぞろぞろと部員が部室から出てくるのを見て、俺はラケットを振る手を止める。
水分を摂ろうと、一度部室に戻った。

「財前!」
「なんや?」
「一年、外周行ってくるって」
「おー」

持ってきていたスポーツドリンクを、ごくりと飲み干した。
謙也さんたちは、そうして卒業していった。
卒業式後は、一瞬だけ顔を合わせた。
俺に第二ボタンを押し付けて、打ち上げがあるからと謝って去っていった。
それ以来、会っていない。
謙也さんが卒業して、5日。
まだたったの5日しか、経っていないなんて。
俺には信じられなかった。
そう思うくらい、謙也さんのいない生活は遅く過ぎていったのだ。
今日はあんたの誕生日っすわ、謙也さん。

「何してんやろ、俺……」
「財前?」
「なんもない。はよコート出えや」

そうやって、心配そうにする同級生の側を通り抜けた。
俺、かっこわる。





「お疲れさんでーす」
「お疲れーす」

挨拶して帰っていく後輩に、気ぃつけやと言葉をかける。
一年前まで、自分がこんなこと言うとは思ってもみなかった。
俺も、変わっているのだ。
みんな変わる、それは謙也さんだって例外ではない。
俺は一体、謙也さんに何を期待していたのだろうか。
ふと、ロッカーにたてかけたラケットバッグの横に、そっと置かれている紙袋に視線がいった。
あれは、謙也さんのために買ったものだ。
今日だって何も約束してはいないけれど、でも付き合ってから、初めて迎えるあの人の誕生日。
楽しみにしないわけがなかった。

「……帰ろ」

がたっと俺が立ち上がったのと、謙也さんが部室に飛び込んできたのは同時だった。
俺は驚きで目を見開く。

「け、謙也さ……」
「っはあ、やっとおった…!」

家行ってもおらんし、まだこっちかと思ったら電気ついてたからめっちゃ走ってもうた。
そう言って謙也さんは苦笑いをこぼした。
俺はシャツの裾で指先を遊ばせながら、少しだけうつむく。
久しぶりに会って、何を言っていいか分からなかった。
それはどうやら謙也さんにも伝わったようで、謙也さんはため息を吐いてこちらに近づいてきた。

「光」
「……謙也、さん」
「ごめんな」

ふわっと謙也さんの香水が香ったかと思うと、ぎゅうと抱きしめられて視界を塞がれる。
抵抗する気なんて到底なかった。
俺がそっと背中に腕を回すと、謙也さんは安心したように俺の肩に顎を置いた。

「光に距離置かれて、ああ光もこんな気持ちやったんかなって思ったら、めっちゃ申し訳なくなった」

受験前はほんまに荒んでて、怖がらせてしもたやろ。
あん時乱暴に抱いてごめんな。
そうやって謙也さんはたくさんのことを謝った。
ああ、俺は一体謙也さんの何を見ていたんだろう。
この人の根本は、何も変わってなんかいなかったのに。
それを勝手に恐れていたのは俺だったのに。

「……俺も、ごめんなさい」
「光?」
「謙也さんが変わってしもたんやろかって考えたら、めっちゃ怖くなった」
「光……」
「ごめん、謙也さんごめんなさい」

もう謝らなくていいとでも言うように、謙也さんは抱きしめる力を強くした。
そうしてしばらく抱き合ってから、そっと離れた謙也さんの唇は尖っていた。

「……でも」
「謙也さん?」
「誕生日おめでとうメールくらいは、12時きっかりに送ってくれるかもってちょっと期待してた」

そういえば、なんだかぎこちないままメールを送るのも癪で、結局おめでとうメールは送信しなかった。
俺は尖った唇をぎゅうとつまんでやる。
痛い痛いと喚く謙也さんを見て笑って、指を離したついでにキスをした。

「誕生日おめでとうっすわ、謙也さん」

泣きそうになって抱きついてくる謙也さんを交わして、ラケットバッグと紙袋を持った。
体全身が、好きという感情で溢れてる。
思わず笑顔になって、部室を出た。

「続きは帰ってからな、謙也さん」



Happy birthday to you !!



END.
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